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連載

金融の世紀

第17回【ケインズの「船中八策」】
黒木 亮

2024年5月号

米英両国で練り上げた第二次大戦後の国際通貨体制案について話し合う連合国通貨金融会議は、1944年7月1日から、米ニューハンプシャー州ブレトンウッズのマウント・ワシントン・ホテルで開催されることになった。
 同地が開催場所に選ばれたのは、バクテリア性心内膜炎(心臓の弁の感染症)を抱える61歳のケインズが、暑い場所は困ると要望したことが一つの理由だった(米国でエアコンが普及したのは1950年代になってから)。
 1944年6月16日、英国代表団は、クイーン・メアリー号で、英国サウサンプトンから出港した。ベルギー、オランダ、ギリシャ、中国、チェコスロバキアなど、他の18カ国の代表団員、920人の軍人、有刺鉄線の柵に囲われてデッキの下に押し込まれた多数のドイツ人捕虜も一緒だった。
 ギリシャ代表団員のアレクサンダー・アルギュロポウロスは、ナチスの捕虜収容所から逃れて来たばかりだった。英国財務省のロバート・ブランドの一人息子のジムは、英歩兵連隊中尉としてノルマンディー上陸作戦に参加し、ナチス占領地へと進軍中だった(翌1945年3月、フランスで戦死)。
 船・・・