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連載

テイレシアスの食卓 vol.14

誤解された「海亀のスープ」
河井 健司

2024年5月号

 素材を別のものになぞらえる手法を用いた「もどき・見立て料理」は精進料理のみならず、フランス料理の世界にも古くから存在する。
 約120年前に出版された古典フランス料理のレシピ書では、サーモンのすり身を、専用の型に詰めて低温のオーヴンでしっとり焼き上げ、仔羊のあばら肉に見立てた料理が載っている。他にも魚を肉に見立てる料理が多く記されているが、これらはキリスト教における肉断食期間の献立用に考案された品々だ。
 翻って、同書には宗教色の薄い「見立て料理」のレシピも収録されている。例えば、「山うずらのエピグラム」という風変わりな料理がある。山うずらのもも肉および、ささみで作ったすり身を胸肉の形に成形し、パン粉を付けて香ばしく焼く。これを、焼き上げた胸肉に寄り掛けて盛り付ける。さて、どちらが本物でしょうか、と少々ひねりのきいた洒落のような料理だが、まさに名前の通りのエピグラム、すなわち風刺であり寸鉄詩である。一般の人々には理解されにくい仕立てかも知れないが、この料理は当時の主たる客層、いわゆる知識人に向けたものであるから仕方ない。
 さて、さらに少し時代を遡ると、・・・