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連載

テイレシアスの食卓 vol.13

作りたてのミルフィーユ
河井 健司

2024年4月号

 滞仏中、日本の常識や価値観が通用しないことも多かった。しかし、ときとしてそれは自身の見識の狭さを自覚し、世界に目を向けるきっかけとなった。
 さて、料理人は本などから得る知識と現場経験によって技術を磨き、思考を重ねて判断力を身につける。これに加えて指導者に恵まれれば、口伝によって、より高度な専門知識も得られる。それでも、こうして時間をかけて培った判断のものさしが通用しない場面だってある。
 例えばシュークリームの中身にも用いられ、広く知られているカスタードクリーム。フランスではクレーム・パティシエールと呼ばれ、フランス菓子の世界では欠かせない基本的なパーツのひとつだ。汎用性も高く、バニラやコーヒー、アーモンドプラリネなどを加えて風味付けし、様々な菓子に使われる。
 作り方は、さほど難しくはない。卵黄に砂糖を加えてすり混ぜ、さらに小麦粉を加えて練り合わせる。ここに温めた牛乳を注ぎ、鍋に入れ火にかけて濃度がつけば完成。ただこれだけなのだが、美味しく作るにはちょっとしたコツがある。それは、しっかりと火入れすること。もちろん焦げてしまっては台無しだが、木べらで注・・・