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連載

をんな千一夜 第85話

水木 洋子 文豪が信頼を寄せた脚本家
石井 妙子

2024年4月号

 自作をテレビドラマ化された人気漫画家が命を絶った。映像化された作品に違和感を持った原作者の苦悩を耳にすることは多い。だが一方で、映像化された作品が原作以上に人々に愛され、作者からも感謝されるという例もなくはない。その境を決めるのは、ひとえに脚本家の力量である。
 オリジナル作品はもとより、川端康成、林芙美子、司馬遼太郎ら多くの原作者から信頼されて脚本を任され、名作とした脚本家に水木洋子がいる。
 水木は明治43年、京橋に生まれ、神田に育った。本名は高木富子。両親はともに愛知県出身だが、江戸の遺風が色濃く残り、寄席と芝居が身近にある環境下で生まれたことが、将来の素地となる。佐久間尋常小学校を卒業し、難関の府立第一高等女学校に進学。東京屈指の進学校で二級上には女優の沢村貞子がいた。文才は当時から際立っており、学芸会や送別会で寸劇用に戯曲を書いた時から、歌舞伎や帝劇の芝居の脚本を書ける人間になりたいと考えるようになる。親を説得して日本女子大学校で国文学を学ぶが、良妻賢母教育に反発し、卒業間近に退学すると文化学院文学部専攻科演劇科に再入学。戯曲家の岸田國士、演出家の北村喜・・・