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連載

をんな千一夜 第84話

兵頭精 女性初の飛行士の無念
石井 妙子

2024年3月号

 JALの社長に女性が就任した。客室乗務員出身と聞くが、では現在、パイロットに女性はいるのだろうか。そんなことから、女性初の飛行士、兵頭精のことを思い出した。
 精は明治32年に愛媛県宇和郡東仲村(現、北宇和郡鬼北町東仲)で生まれた。父林太郎は漢籍を買い込んで、自ら学び、次第に「空を飛ぶ道具の発明」に取り憑かれた人だった。まだ飛行機が西洋で開発される前、自ら図面を書き、模型を作った。だが、人間が乗る実物を作るには金が足りず、志半ばにして、53歳で亡くなる。この時、四女の精は、11歳。家督は14歳年長の長女カゾエが継いだが、この姉は土木作業に従事した後、土地の権力者の愛人となり、現場を任されるようになったという人物で、「姉御」と言われていた。末っ子の精が松山市の済美高等女学校に寄宿生として進学できたのは、この姉のお陰であり、また、妹が名門女学校に進学したことは、姉の誉れでもあったのだ。
 女学校を卒業したら、「先生」になるはず。母も姉カゾエも、そう信じ込んでいた。ところが、卒業後、精は「教師になりたくない」と言い出し、周囲が結婚を勧めると、「結婚もしたくない」と言い張・・・