大往生考 第51話
離れがたき故郷
佐野 海那斗
2024年3月号
能登半島地震から2カ月が経過した。知人の中には、医療支援に従事し、被災者を看取った医師もいる。その最期は、かの地に特有の事情を感じさせるものだった。
その患者は70代の男性だったという。大阪で働いていたが、定年後、故郷の能登半島に戻った。数年前に妻に先立たれ、子どもはいないため、友人や近所に住む姉と交流しながら一人暮らしを続けていた。
知人が支援に入った福祉避難所に患者がやってきたのは、震災から10日ほどが経過してからだ。きっかけは姉からの「弟の調子が悪そうなので、入所させてほしい」という電話だった。
自宅を訪問した看護師からは、「状態が悪い。医療機関を受診していないが、アルコール依存で基礎疾患がありそう」と報告があった。患者の入所は認められ、介護ベッドに入床となった。
知人が初めて患者と会ったのは、その翌日だ。看護師から「左足の痛みを訴えるため、診察してほしい」と連絡があった。
診察すると、左足背に冷感があり、足趾は蒼白に変色していた。左側の鼠径部で大腿動脈の拍動を確認できたが、足背動脈は触知できなかった。血行障害の存在を・・・
その患者は70代の男性だったという。大阪で働いていたが、定年後、故郷の能登半島に戻った。数年前に妻に先立たれ、子どもはいないため、友人や近所に住む姉と交流しながら一人暮らしを続けていた。
知人が支援に入った福祉避難所に患者がやってきたのは、震災から10日ほどが経過してからだ。きっかけは姉からの「弟の調子が悪そうなので、入所させてほしい」という電話だった。
自宅を訪問した看護師からは、「状態が悪い。医療機関を受診していないが、アルコール依存で基礎疾患がありそう」と報告があった。患者の入所は認められ、介護ベッドに入床となった。
知人が初めて患者と会ったのは、その翌日だ。看護師から「左足の痛みを訴えるため、診察してほしい」と連絡があった。
診察すると、左足背に冷感があり、足趾は蒼白に変色していた。左側の鼠径部で大腿動脈の拍動を確認できたが、足背動脈は触知できなかった。血行障害の存在を・・・