テイレシアスの食卓 vol.12
想い出のクスクス
河井 健司
2024年3月号
北アフリカ地域の先住民、アマジグ人をご存知だろうか。日本ではベルベル人の名で知られているようだが、ベルベルとは侵略者が用いた蔑称であり、彼らは自民族をアマズィーグと称していることからも、アマジグ人と呼ぶべきだろう。
北アフリカ先住民と聞いてイメージするのはアラビア系の人種かも知れないが、この地域のアラビア人による支配は七世紀からのことであり、多様なアマジグ人の中には西ユーラシア人、いわゆるコーカソイドも存在する。今回は、とある白人のアマジグ人のお話。
パリの高級レストランで研修生として働き始めたころ、雲の上の存在だったボスとは面識がなかった。そんなある日の朝、上質な仕立てのスーツに身を包んだ恰幅の良い初老の紳士が、二階の事務所に通じる階段に向かう際、居合わせたスタッフ達に向かって威厳ある「ボンジュール」の挨拶をしており、筆者も「ボンジュール、ムッシュ」と返した。ああ、これがサンドランスか、と内心思ったが、彼の正体はリュカ・カルトンの二階にあるサンドランス夫人主催の会員制レストランの洗い場担当者であった。
フランスのレストランでは、洗い場担当者はフラ・・・
北アフリカ先住民と聞いてイメージするのはアラビア系の人種かも知れないが、この地域のアラビア人による支配は七世紀からのことであり、多様なアマジグ人の中には西ユーラシア人、いわゆるコーカソイドも存在する。今回は、とある白人のアマジグ人のお話。
パリの高級レストランで研修生として働き始めたころ、雲の上の存在だったボスとは面識がなかった。そんなある日の朝、上質な仕立てのスーツに身を包んだ恰幅の良い初老の紳士が、二階の事務所に通じる階段に向かう際、居合わせたスタッフ達に向かって威厳ある「ボンジュール」の挨拶をしており、筆者も「ボンジュール、ムッシュ」と返した。ああ、これがサンドランスか、と内心思ったが、彼の正体はリュカ・カルトンの二階にあるサンドランス夫人主催の会員制レストランの洗い場担当者であった。
フランスのレストランでは、洗い場担当者はフラ・・・