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連載

テイレシアスの食卓 vol.09

文化を伝えるレストラン
河井 健司

2023年12月号

 パリで仕事に就いて三年目のある日、友人からアコースティックギターを譲り受けた。さっそく弦を新調し、バンドを組んでいた過ぎし日を懐かしみながら自宅で練習しようとしたものの、穏やかに暮らしている隣人に迷惑を掛けては心苦しい。そこで、自宅からほど近いアンヴァリッド(国立廃兵院)の芝生の上で練習することを思いついた。
 当時、借りていたアパートの住所はパリ七区。エッフェル塔とアンヴァリッドのちょうど中間に位置しており、セーヌ川からも近く、各国の大使館やフランス政府庁舎も点在し比較的治安の良いエリアにあった。居心地はすこぶる良く、日本に帰国するまでの四年間は住居に不満なく過ごせた。ちなみに、その前の二年間はパリ十区、街娼が多く立つことで有名なストラスブール・サンドニの移民が多いエリアに住んでいた。この界隈は日曜日にも商店が開いているし家賃も安く、またパリ東駅にも近いことから便利ではあったが、良い仕事をするには住環境も大事と思うに至り、花の七区に越してきた。二年ほど住んで猥雑さにうんざりしてしまったのだ。
 さて、誰に聞かせるわけでもなくアンヴァリッドの芝生の上で久しぶりにギ・・・