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連載

皇室の風 第182話

英国大使館の桜
岩井克己

2023年11月号

戦前の大正、昭和のときには林立する幡に施されていた神武東征神話のシンボルが、平成の即位の礼では一斉に消し去られた。神武軍を戦勝に導いた八咫烏、金色の鵄、鮎と酒甕の刺繍である。
 当時の宮内庁書陵部幹部は「先例がないのに明治以降に加えられたものであり、皇室の伝統とは言えないので」と説明していた。とかく史実性が疑われる「神武創業」であり、軍国色も連想させるとの判断だったろう。
 もちろん令和の即位の礼でも復活しなかった。即位礼正殿の儀のさなか、強風にあおられ落下した「萬歳幡」は安倍晋三首相揮毫の大型幡だったが、先例の大正、昭和のときはあった鮎と甕の刺繍はなくなっていた。
 ただ他方で神武天皇祭、紀元節祭や、天孫降臨を偲ぶ元始祭といった記紀神話から創られた祭祀は天皇家の私事として存続している。
 明治初年、歴代天皇の仏式の位牌は神仏分離のため泉涌寺の霊明殿に集約され、新たに神式の霊廟として東京の旧江戸城西の丸に「皇霊殿」を設けて天皇自ら祖先祭祀を行うことになった。当時、神祇官で神祇行政を推進した津和野藩の藩主亀井茲監、藩士福羽美静らが「天壌無窮の神勅に・・・