ピアポント・モルガンには、裕福な父親からの物心両面の援助があったとはいえ、祖父や父親の事業を遥かにしのぐ一大金融帝国を築くには、並外れたエネルギー、豪胆さ、運が必要だった。
　彼の最初の勝負は、ダンカン・シャーマン商会に入社した翌一八五九年、キューバに出張し、ニューオリンズに戻って来たときだった。港で知り合った貨物船の船長から、引き取り手のなくなった船一隻分の南米産コーヒー豆を、社の許可なしに会社の約束手形で買い取り、見事に高値で売り抜けて利益を上げた。船長が信頼できる人物だと判断し、積荷の幾袋かのコーヒー豆を抜き取り、ニューオリンズの何軒かのコーヒー商に持ち込み、品質と価格を確かめた上での決断だった。
　しかし、おそらくこの大胆かつ危険な賭けが、ダンカン・シャーマン商会の経営陣の不興を買い、父ジューニアスが同商会に資金を提供するから息子をパートナーにしてほしいと申し出たが、拒否の憂き目に遭う。
　そこで南北戦争が勃発した一八六一年四月からほどなくして、ピアポントは従兄弟のジェームズ・グッドウィンとともに、ＪＰモルガン商会（J. Pierpont Morg・・・