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経済

近鉄の企業統治「崩壊」の無残

八十歳「小林哲也」の異様な専横

2023年11月号

 もう一人の「小林」―。周囲からこんなおだてられ方をされて本人は密かに悦に入っているとか。
 最初の「小林」は他でもない。小林一三だ。阪急電鉄を中核とする阪急東宝(現阪急阪神東宝)グループの創始者。鉄道事業と沿線開発、エンターテインメントをマッチングさせた、日本の私鉄経営のビジネスモデルをつくり上げた実業家だ。
 そしてもう一人の方は小林哲也。近畿日本鉄道を主軸とする近鉄グループホールディングス(GHD)の代表取締役会長で、社長時代も含め十六年にわたってグループに君臨する「ドン」だ。
 もっとも一三が茶人や美術品蒐集家でもあり、時に自らが立ち上げた宝塚歌劇の脚本まで書いたという粋人だったのに対し、哲也の方は何ら趣味らしき趣味もない凡人。十一月二十七日で齢八十歳「傘寿」を迎えるという無粋な老人に過ぎない。唯一と言えば「健康保持への異常なほどの拘り」(事情通)と、権力に対するあくなき執着心くらいか。
 それをまざまざと見せつけたのが、今年四月二十五日の首脳人事撤回事件だろう。内定していた会長・社長交代をひっくり返したのだ。
 近鉄GHDがト・・・