イスラエルとパレスチナ自治区ガザ地区を実効支配するイスラム組織ハマスの軍事衝突が、中東から遠く離れた東南アジアのタイ社会を震撼させている。これまでほとんど知られていなかったが、イスラエルでは三万人のタイ人が働いており、日系企業を辞めてイスラエルへ出稼ぎに行く労働者は少なくない。十月二十五日現在、当地では三十一人のタイ人がハマスの攻撃によって命を落とし、十八人が怪我を負った。さらに十九人がハマスの人質に取られており、その波紋は小さくない。
　十月十二日正午前、四十人余りのタイ人労働者を乗せたイスラエルのフラッグシップ「エル・アル航空」の旅客機が、首都バンコクからほど近い中部サムットプラカーン県のスワンナプーム国際空港へ到着した。入国審査を終え、タイ人労働者たちがゲートから姿を見せると、詰めかけた大勢の報道陣から一斉にフラッシュが焚かれた。足に大けがを負って車いすで帰国した労働者の姿もある。みな一様に憔悴しきった表情を浮かべていたが、空港に駆け付けた家族や親戚の姿を見つけると、抱き合って再会を喜んだ。
　イスラエルは二十年以上にわたり、タイ人労働者の渡航先の上位に入っ・・・