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連載

日本の科学アラカルト 158

医療分野での応用に期待 「ナノマシン研究」の可能性

2023年10月号

 今年もノーベル賞の季節がやってきた。十月二日の生理学・医学賞を皮切りに各賞が順次発表されていく秋の風物詩である。
 これに先駆ける形で九月十九日、英国の学術情報サービス会社「クラリベイト」が、研究論文の分析を元にしたノーベル賞受賞者予想を発表した。論文がどれだけインパクトを持つかを分析したもので、かつてはトムソン・ロイター引用栄誉賞などという名称だった。資本の変化があり、現在はクラリベイト引用栄誉賞になっている。
 今年、この栄誉に輝いた日本人は二人いた。筑波大学・国際統合睡眠医科学研究機構機構長の柳沢正史氏。同氏は睡眠に関係する神経伝達物質について、世界的に見ても画期的な研究成果を残した人物だ。
 もう一人は川崎市産業振興財団の副理事長で、ナノ医療イノベーションセンター長の片岡一則氏だ。東京大学大学院で長年、教授を務めた片岡氏は、ナノマシンの国内第一人者だ。ナノ(一ミリの十万分の一)サイズの物質に薬剤を載せて制御し、狙った場所まで届けることでがんの治療を効率化することに貢献した。
 ナノマシンと言えば、二〇一六年に欧州の三人の研究者がすでにノ・・・