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連載

本に遇う 第284話

週刊朝日と扇谷正造
河谷 史夫

2023年8月号

 書店の前を通りかかったら、紐で結わえられた『週刊朝日』が幾冊も積まれてあった。
 売れ残りかと思ったら違った。「再入荷しました」という紙が貼られてある。〈思い出は「週朝歌壇」に載ったこと二冊求めるきょう最終号〉という投稿歌を新聞で見たが、記念に買う人もいたのであろう。めでたく増刷したそうである。雑誌にも生死がある。末期に死に花を咲かせたわけだ。
 教育の普及と大正デモクラシーの開花という社会と文化の変容のなかで雑誌ジャーナリズムが出現した。一九二二年に生まれた『週刊朝日』は、メディア環境激変中の二〇二三年五月末、百一歳を一期として消えた。休刊と称してこれを廃刊と言わないのは、撤退を転進、全滅を玉砕、敗戦を終戦とした感傷主義的用語法による。復刊することはあるまい。
 NHKの「サラメシ」にまで登場した。編集部最後のメシが個食の風景だったことにテレビ欄のコラムが不満気だった。いわく「かつて週刊朝日を百五十万部売った編集長の扇谷正造は、編集者や記者は『接客業』だと言っていた。取材先や社外筆者などと食事をするのも仕事である、と。実際には『外メシ』をする部員もいた・・・