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連載

本に遇う 第283話

世襲で失われた政治
河谷 史夫

2023年7月号

 父は永遠に悲壮である、とは萩原朔太郎の名言だが、詩人の想像力は政治家には及ばなかったと思われる。首相岸田文雄の親馬鹿人事を知れば、「父は永遠に滑稽である」と言い換えたであろう。
 何かと鈍重なくせに、倅の政務秘書官抜擢には「スピード感」があった。周囲は危惧したらしい。案の定、先の一月の外遊随行のとき、パリやロンドンで公用車使用の名所めぐりをして『週刊新潮』に暴露され、今度は昨年末に首相公邸に親族を集めた忘年会を『週刊文春』に素っ破抜かれた。
 新聞が週刊誌を追うという体たらくは昔新聞にいた者としては情けない限りで、部数減にさらされて元気のないのが気になるけれど、それより気がかりなのは政治の実態だ。毎日新聞の「余録」が、元首相の「桜を見る会」運営、前首相の「長男による総務官僚接待」問題を挙げ、これで「首相の公私のけじめが三人続いて問われたことになる。奥底で、政治が根腐れしてはいないか」と書いていた。
 政界は家業と化し、衆議院議員の四人に一人は世襲だそうだ。よほど甘い汁が吸えると見える。元首相の安倍晋三が三代目なら、今の岸田も三代目だ。万世一系の天皇制護持・・・