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経済

トヨタの姑息な「株価吊り上げ術」

全固体電池を巡る「虚報」の不埒

2023年7月号

 六月八日、各メディアの記者や証券アナリストなど約二十人が静岡県裾野市にあるトヨタ自動車の東富士研究所に集まった。「トヨタテクニカル・ワークショップ2023」という聞きなれないイベントが開催され、この場で発表された全固体電池車市場投入のニュースが世界を駆け巡った。しかし、眉に唾して聞いたほうがいい。業界紙記者が語る。
「トヨタが、株価吊り上げを目的として発表した可能性が高い」
 状況証拠は限りなく黒を示し、株主総会対策の目論見が透ける。
 ワークショップは、東富士研究所のフロアの一角にパネル展示ブースを設置して行われた。用意された展示は二十程度。記者一同は一緒にブースを回り、担当エンジニアによる説明を聞く。つまり、記者たちに開陳されたのは、全固体電池の情報だけではなかったのだ。前出記者が語る。
「全固体電池の実用化が本当であれば、既存のリチウム電池が吹き飛ぶブレイクスルー。適時開示をしなければならないレベルの技術革新で、『ついで』に発表するものではない」
 この日は、各ブースでの説明が十五分程度の分刻みで行われ、食事時間も二十分ほどしか・・・