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連載

をんな千一夜 第74話

山下 りん 数奇なるイコン画家の生涯
石井 妙子

2023年5月号

 プーチンはロシア正教の熱心な信者として知られる。
 パレスチナから西方に伝わっていったカトリック、東方のギリシャやロシアに伝わったものが正教会。
 ロシア正教は日本に幕末に伝わった。修道士ニコライは函館のロシア領事館付属礼拝堂に司祭として来日。東京の神田駿河台に拠点を築いた。今もその地に残るロシア建築で知られるニコライ堂(東京復活大聖堂)は彼の名に由来する。
 その正教会では像ではなく画が重んじられる。聖人を独特の技法で描いたイコンである。ニコライは日本での布教には、日本人のイコン作家が必要だと考え、信者で絵心のある山室政子に白羽の矢を立てた。ところが山室は結婚してしまいニコライは失望する。しかし、計画はすでに走り出しており、彼は山室の友人をすぐさま代役に立てた。それが山下りんだった。
 りんは安政四年、笠間藩牧野家八万石の藩士の娘として現在の茨城県笠間市に生まれた。父が七歳の時に亡くなった上、明治維新で家は没落。母は娘を山間の農家に嫁がせようとしたが、りんは抵抗し家出する。汽車も開通していない時代に徒歩でひとり東京へ。この時、十六歳。怖いまで・・・