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連載

日本の科学アラカルト 153

食糧不足解決の可能性秘めるイネ品種改良の取り組み

2023年5月号

 世界的な食糧不足は今後さらに深刻化すると予想されている。ウクライナ戦争によって小麦が不足し、生命活動の土台を支える主食が危機に瀕した。
 一方で、日本ではコメの消費量が年々減り続けて、作付面積も減少の一途を辿っている。しかしそんな中でも、コメの品種改良による収量増の研究は、いまだに多くの大学や研究機関で続けられている。国内だけでなく、世界の食糧問題を解決する一助ともなるほか、より育てやすいコメは、国内の農家のためにもなる。
 イネでも小麦でも、そもそもは野生の植物だったものを、人類は改良して使ってきた。特に第二次世界大戦後の「緑の革命」では倒れにくく短稈化(短く低く)され、肥料への反応もいい小麦やイネが世界的に誕生してきた。国内でも多くの改良品種が登場して生産性が向上した。
 しかしいまも改良の余地は残されている。
 東京大学や龍谷大学、滋賀県立大学の研究グループは昨年八月に、窒素肥料を減らしても収量を維持できる野生イネの遺伝子を発見したことを発表している。
 植物の三大栄養素と呼ばれる「窒素、リン、カリウム」のうちでも窒素は特に重要・・・