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連載

現代史の言霊  第61話

インド、パキスタンの核実験(一九九八年)
伊熊 幹雄

2023年5月号

日本も核兵器があれば被爆しなかったはずだ

ナワズ・シャリフ(元パキスタン首相)


 一九四五年八月の広島、長崎への原爆投下。四九年八月のソ連・セミパラチンスクでの核実験―。核兵器廃絶を願う日本にとって、世界史は恐ろしい日付に満ちている。二十五年前の一九九八年五月は、中でも暗澹たる月だった。
 五月十一日、インドが一九七四年以来、二十四年ぶりとなる核実験を実施した。二日後の十三日、インドは再び核実験を行った。
 五月二十八日、インドと敵対する隣国パキスタンが、初めての核実験に踏み切った。インドの核爆発(計六回)に対し、パキスタンも同日、五回、核爆発を行った。
 パキスタンはさらに五月三十日にも核実験を行い、核爆発数でインドを一回上回った。この月は四度、印パ両国の核実験のニュースが世界を駆け巡った。
「いったい何が起きているのか」「インド亜大陸は核戦争直前か」。
 世界中の論評は、困惑と緊張に包まれた。インドとパキスタンは四七年、六五年、七一年と三次にわたって「印パ・・・