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連載

本に遇う 第280話

西山太吉の非業の死
河谷 史夫

2023年4月号

 権力が嘘をつくのは日本も米国も同じだ。だが違いがある。統治の実態を証す公文書が米国では一定年限ののち公開され嘘はばれるが、日本では消失し、あるいは改竄され、嘘が罷り通るのだ。
 安倍内閣はモリカケ事件で財務官僚が「忖度」から文書を改竄して批判された。放送法の解釈変更でも「言論への介入」批判を招いたが、これが安倍の意に沿うものであったことを明かす総務省文書が出てきたら、当時の総務相が「捏造」と決めつけた。総務官僚は一体誰に「忖度」したのだろう。
 沖縄返還で政府が米国と交わした密約の証拠を入手するという仕事をしながら、国家に嘘をつきとおされた毎日新聞記者西山太吉が二月二十四日、北九州市内の施設で九十一年の人生を終えた。
「国家の秘密事項をしっかり報道せよ。見せかけにだまされるな。遺した数々の言葉をかみしめる」(朝日の天声人語)。「今のメディアにその気概があるかと自問自答する」(毎日の余録)。先進の志を継がんとする後進の言やよし。だが日本のメディアに抜き難い不信感を抱いていた西山は「それはともかく、一つでも嘘を暴けよ」と言うかも知れない。
 一九七・・・