東西冷戦は三十四年も前に終わったのに、今日の欧州はまだその幽霊に悩まされている。ソ連の権力機構「国家保安委員会（ＫＧＢ）」の元スパイがロシアに君臨し、ウクライナを呑み込もうと戦争を続けている。東欧各国では、正体不明の政治家たちが利権を漁り、民主政治は迷走中だ。
　モヤモヤした景色の中、チェコに爽快な一陣の風が吹いた。一月の大統領選決選投票で、北大西洋条約機構（ＮＡＴＯ）の軍事委員会トップを務めた経験のあるパベルが、アンドレイ・バビシュ前首相を大差で破って当選した。三月九日、第四代の大統領に就任する。
　パベルは一月三十日、外交的な爆弾を投げた。台湾の蔡英文総統と電話会談をしたのだ。欧州連合（ＥＵ）は公式には「一つの中国」の立場で、台湾との接触は次官級が慣例。それを次の国家元首が、あっさりと破った。
　会談は約十五分。台湾当局は、見るからにうれしそうな蔡総統の写真を公開した。会談では、パベルは「一つの中国」から離れるわけではないが、「二つの制度」として見ていると語ったという。
　中国にとっては、外交惨事だ。中国は、東欧とは共産主義時代から繋がりが・・・