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社会・文化

《日本のサンクチュアリ》「安楽死」論議

幼稚な日本のタブー

2023年2月号

 人の死に向き合うのは辛い。それが苦痛から逃れるための安楽死であっても―。その辛さに目をそむけて議論を避けるのか、それとも社会全体で正面から向き合うのか、日本と海外との差を死生観の違いだけで片付けるわけにはいかない。そこには、社会の成熟度が関わってくるからだ。
 一月十二日、ある殺人容疑事件の審理が京都地裁で始まった。二〇一一年に母親とともに入院先から連れ出した父親を殺害したとして二一年に起訴された元医師、山本直樹被告の裁判だ。殺害計画に加わった母親と医師・大久保愉一被告も共に起訴されている。
 二月の判決を待つ山本被告は一九年に大久保被告とともに、難病の筋萎縮性側索硬化症(ALS)だった当時五十一歳の女性患者本人からの依頼で薬物による殺害を請け負ったとして、二〇年に嘱託殺人容疑でも起訴されている。
 先に発覚した事件より後に露見した事件を先行して審理する司法の思惑について、政府関係者は「安楽死を議論するのを避けたかったからだ」と解説する。
 一九年の事件で女性患者は安楽死を望むと、正常な判断力のもとで表明していた。ALSは海外でも安楽死を考える・・・