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社会・文化

渡辺京二が問うた「真の保守」

「土着思想家」その文業の足跡

2023年2月号

 昨年十二月二十五日に亡くなった渡辺京二さんの最後の本格長編は、本誌連載の「追想 バテレンの世紀」である。命日がクリスマスというのも何やら因縁めく。
 連載は二〇〇六年四月から一六年十二月まで十年九カ月、百二十九回に及んだ。十五・十六世紀、ポルトガルがアフリカを回ってアジアへ進出し、ザビエルの日本上陸から徳川幕府が鎖国するまでのキリシタン通史である。内情を明かせば途中、読者から「長すぎるし退屈だ。この話に何の意味がある」と苦情も寄せられ、連載九年目、さすがに恐縮した著者が「あとは書き下ろしで本にするから、一応終わりましょうか」と申し出たのを、当時の編集長は「遠慮ご無用、最後まで続けて下さい」と励ました。終了時八十六歳。翌年、単行本(書名は「追想」抜き)は読売文学賞を受賞した。
 最晩年の森鷗外が「渋江抽斎」など史伝三部作を新聞連載した時も全く同じ苦情があったが、今や不朽の名作、未踏の境地と評価は定まっている。大佛次郎は朝日新聞に「天皇の世紀」を長期連載中、未完で死去した。渡辺さんの連載タイトルは、大佛作品を意識していたのかもしれない。三作に共通するのは、歴史はいかに・・・