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連載

をんな千一夜 第71話

長谷川 時雨 女流文筆の開拓者
石井 妙子

2023年2月号

 本欄「をんな千一夜」の連載を引き受けるにあたって意識したのは、長谷川時雨が上梓した『近代美人伝』だった。名流婦人から芸妓まで長谷川が短文で人物を紹介した作品、それに倣いたいと思ったのだ。劇作家、批評家。また、女性のための雑誌『女人芸術』を創刊したことでも知られる長谷川は、「女流の大御所」として著名であった。ところが、ある理由から戦後、その名は語られなくなる。
 女性作家の存在は今ではめずらしくもない。二〇二二年夏の芥川賞は候補者五人全員が女性であることがメディアを騒がせたが、この時、思い出されたのは、平林たい子が後輩作家である瀬戸内寂聴に語った次の言葉だ。
「今の若い女の作家はいい、物を書くことでほめられ、はじめからちやほやされる。我々の時代は、女が物を書く時は、夫にさえ遠慮して、ちゃぶ台か、おひつの上で書いた」。平林のこの発言を受けて、年若の瀬戸内は次のような感慨を抱いたという。「われわれは彼女たちが命がけで開拓してくれた道を楽々走らせてもらっているのだと胸が熱くなった」。
 長谷川は、その平林よりもさらに年長であり永井荷風と同世代、樋口一葉よりも七歳・・・