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連載

大往生考 第36話

がんで死ぬことの幸せ
佐野 海那斗

2022年12月号

 がんで死ぬのは最高の死に方だ─。二〇一四年末、権威ある『英国医師会誌(BMJ)』の元編集長であるリチャード・スミスが記し、話題となった文言だ。スミスは自殺を除く死に方を、突然死・がん・認知症・臓器不全に分類し、病気が分かってから、亡くなるまでに時間的な猶予があるがんを最高の死に方とした。今年、このことを痛感する症例を経験した。患者は、医学生だった頃の恩師だ。
 恩師と知りあったのは、医学部四年生の内科の講義だった。恩師と同じ内科を専攻したこともあり、医師となってからもお世話になった。面倒見の良い方で、筆者が新しい病院に異動する度に、恩師から病院長に、「学生時代から指導している医師です。よろしくお願いします」と電話を入れてくれた。病院長から「あんな偉い先生から電話がかかってきて驚いた」と言われたことがある。
 恩師は、医師として多くの実績を残した。たくさんの患者を診療し、かつてはメディアの名医特集の常連だった。また、若い頃には筆頭著者として、教授になってからは研究責任者として、多数の研究成果を国内外の学会や一流の医学誌で発表した。
 ただ単に優秀な医師は、・・・