本に遇う 第275話
死刑廃止論者となる
河谷 史夫
2022年11月号
唐突ながら宗旨替えをした。死刑制度支持から死刑廃止論者に転向したのである。「目には目を」で、人を殺したら死を以て贖うべきだと長年思っていた。死刑廃止運動に熱心だったという高名な弁護士が暴漢に妻を殺されて死刑支持に転じたと聞いて、さもありなんとその心中を察した。
二〇〇一年、大阪府池田市の小学校で児童二十一人が殺傷され、教諭二人が傷害を負うという事件が突発した。現行犯逮捕された男は起訴され、死刑判決が下り、〇四年九月、死刑が執行された。
そのころ新聞で持たされていた小さなコラムにこう書いた。
〈「人を殺したからといって」とドストエフスキーは『白痴』の主人公に言わせる。「その人を殺すのは、そのもとの罪に比べて比較にならないほど大きな刑罰です」/作家自ら政治犯として死刑判決を受け、処刑直前減刑となった。/しかし蕾をむしるように児童八人を殺し、贖罪の言葉のなかった死刑囚の処刑は当然と考える〉
お前は死刑論者かと非難の手紙が何通も来たが、人を殺し、反省の片言もない人間を擁護する気持ちにはなれなかった。記者仲間で「もしお前の娘が凌辱されて殺害されたら・・・
二〇〇一年、大阪府池田市の小学校で児童二十一人が殺傷され、教諭二人が傷害を負うという事件が突発した。現行犯逮捕された男は起訴され、死刑判決が下り、〇四年九月、死刑が執行された。
そのころ新聞で持たされていた小さなコラムにこう書いた。
〈「人を殺したからといって」とドストエフスキーは『白痴』の主人公に言わせる。「その人を殺すのは、そのもとの罪に比べて比較にならないほど大きな刑罰です」/作家自ら政治犯として死刑判決を受け、処刑直前減刑となった。/しかし蕾をむしるように児童八人を殺し、贖罪の言葉のなかった死刑囚の処刑は当然と考える〉
お前は死刑論者かと非難の手紙が何通も来たが、人を殺し、反省の片言もない人間を擁護する気持ちにはなれなかった。記者仲間で「もしお前の娘が凌辱されて殺害されたら・・・