NTT東が特殊詐欺に「加担」
犯罪組織に「電話回線提供」止めず
2022年11月号公開
十月二十日までの十日間は毎年、「全国地域安全運動」が実施される。今年も芸能人が各地で一日警察署長を務めて防犯を呼びかけた。近年、この運動の主要目的は特殊詐欺被害防止だ。テレビCMやNHKでも繰り返し注意喚起が行われているが被害は減らない。特殊詐欺の警察による認知件数は、二〇一七年をピークとして減少傾向にあったが昨年、再度上昇に転じた。昨年、確認された被害総額は二百七十八億円余り。これだけの金額が「半グレ」と呼ばれる準暴力団など裏社会に流れ込み、別の犯罪の資金にもなっている。警察の捜査能力や、高齢者の不注意、犯罪グループの手口の巧妙化など原因は複雑である。見落とされがちなのは、詐欺グループの直接的な武器である電話サービスを提供する通信事業者の責任だ。
特殊詐欺に使用されていると知りながら、電話サービスの提供を止めない通信事業者は、犯罪に加担しているようなものだ。それが国内最大の事業者だったら―。
犯罪防止より総務省の顔色
今年九月、岐阜県警と警視庁が合同で、東京都千代田区に本社を置く合同会社アシストライズを摘発した。「電子計算機使用詐欺ほう助」の疑いで、同社社長の佐々木式部容疑者と、実質的経営者の大堤康至容疑者らを逮捕している。アシストライズは詐欺グループが使用する電話番号を提供していた。
〇九〇や〇七〇で始まる携帯電話番号や、〇五〇で始まるタイプのインターネット・プロトコル(IP)電話の番号が相手側に表示されると、詐欺の「成功率」は下がる。還付金詐欺では役所からの電話を装うために固定電話の番号、東京でいえば〇三から始まる電話番号が必要不可欠だ。
摘発されたアシストライズは、NTT東日本と〇三で始まる番号が表示されるIP電話回線を約二千五百件契約して、詐欺グループに利用させていた。
電話回線を通信事業者と契約して、それを再販するケースはあり、合法的な専門業者も存在する。問題は、アシストライズが相手を犯罪集団と認識しながら番号を利用させていた点だ。
道具屋―。犯罪者が必要なものを調達する裏社会のビジネスである。特殊詐欺であれば、振り込ませるための金融機関口座や、「飛ばし」と呼ばれる他人名義で契約された携帯電話、役所の偽造身分証、そして固定電話番号が道具屋の「商品」となる。
アシストライズは当局が把握している限り、国内最大の道具屋で、IP電話のパスワードなどを提供して通常の十倍とされる利用料を受け取っていた。法外な料金であり、犯罪に加担していたことを知りながらサービスを提供していたことは間違いない。
問題はNTT東日本の責任だ。アシストライズがNTT東日本と契約した電話番号が詐欺に使用されるケースは昨年秋ごろから確認され始めた。そして「警視庁からの要請を受け、NTT東日本はアシストライズへの新たな番号の提供を停止したとみられている」(情報筋)。
しかし実は、昨年十二月にアシストライズとまったく同じ住所で登記された「合同会社エムエス」が設立され、NTT東は同社と回線使用契約を結んでいるのだ。エムエスの代表は当初、女性だったが、今年五月には前述したアシストライズと同じ「佐々木式部」に交代している。誰が見ても実質的な「第二会社」だが、NTT東は同社と契約したのである。「気づかなかった」との言い訳は通用しない。
年間売り上げ一兆七千億円余りを叩き出すNTT東が、犯罪に関わる会社からの料金収入を惜しんで契約を続けるはずはない。全国紙社会部記者が語る。
「NTT東はお役所体質が強く、処分を恐れて総務省の顔色をうかがう傾向がある」
どういうことか。NTT東など通信事業者が遵守すべき三つの責務がある。「検閲の禁止」「秘密の保護」「利用の公平」だ。最初の二つは、憲法にも規定されており、電気通信事業法でも冒頭に登場する。そして最後の「利用の公平」も同法第二章の筆頭に掲げられた重要原則だ。たとえば、政治的信条を理由にして電話の利用が断られることがないよう定められた条文である。また、警察や救急といった緊急通報へのアクセスを保証するためにも、利用者からの申し込みがあれば、公平に契約することを義務づけている。
同法の二十五条では「正当な理由がなければ(中略)電気通信役務の提供を拒んではならない」としている。これは正当な理由があれば契約を拒めると読めるが、その判断は難しい。現に、過去には、契約者が有罪になったケースでも、それを理由として通信サービスの提供を止められないと総務省が方針を示している。
しかし一方で、「KDDIなど他の通信事業者はNTT東と比較すると、特殊詐欺に使われる懸念のある契約の拒絶に前向き」(前出情報筋)という。NTT東と西の二社は、電通事業法の杓子定規な適用を優先するあまり、詐欺犯罪を助長している状況なのだ。
「利用の公平」は無制限に適用されるものではない。たとえば暴力団員は新たな携帯電話契約を結ぶことができない。また、二〇一九年から、実際に詐欺に使用されたことが確認された番号については、事業者が利用停止にすることが可能になっている。
疑惑の会社と取引継続
同じグループ内でもNTTコミュニケーションズでは少し事情が異なる。昨年九月に摘発された「道具屋」の事件では、同社と契約した回線が使用されていた。そして、NTTコミュは約六千回線について事前に利用停止扱いとしている。これについて「総務省が当初、反対したが、NTTコミュが警察の協力を得て資料をそろえて説得した」(前出情報筋)という。
今回、アシストライズの事件で逮捕された実質的経営者の大堤容疑者は、二〇二〇年にも詐欺グループに転送電話サービスを提供して摘発され、総務省から処分を受けた札付きの人物。NTT東が本気で特殊詐欺撲滅に取り組むのであれば、サービス提供を拒否することは十分可能だった。
道具屋と警察はいたちごっこを繰り広げている。現在、捜査当局が目をつけているのがX社だ。千代田区に本社を置くX社について、すでに警察からNTT東に捜査照会が行われたという。しかしNTT東は耳を貸さず、X社との取引を継続中だ。X社はNTT東と西の光回線を利用して独自サービスと組み合わせた事業を展開している会社だという。
NTT東がアシストライズに提供した電話番号による詐欺被害額は「数十億円に上るとみられている」(前出情報筋)。国内最大の通信事業者が詐欺グループをサポートしているのだから、被害が絶えるわけがない。
特殊詐欺に使用されていると知りながら、電話サービスの提供を止めない通信事業者は、犯罪に加担しているようなものだ。それが国内最大の事業者だったら―。
犯罪防止より総務省の顔色
今年九月、岐阜県警と警視庁が合同で、東京都千代田区に本社を置く合同会社アシストライズを摘発した。「電子計算機使用詐欺ほう助」の疑いで、同社社長の佐々木式部容疑者と、実質的経営者の大堤康至容疑者らを逮捕している。アシストライズは詐欺グループが使用する電話番号を提供していた。
〇九〇や〇七〇で始まる携帯電話番号や、〇五〇で始まるタイプのインターネット・プロトコル(IP)電話の番号が相手側に表示されると、詐欺の「成功率」は下がる。還付金詐欺では役所からの電話を装うために固定電話の番号、東京でいえば〇三から始まる電話番号が必要不可欠だ。
摘発されたアシストライズは、NTT東日本と〇三で始まる番号が表示されるIP電話回線を約二千五百件契約して、詐欺グループに利用させていた。
電話回線を通信事業者と契約して、それを再販するケースはあり、合法的な専門業者も存在する。問題は、アシストライズが相手を犯罪集団と認識しながら番号を利用させていた点だ。
道具屋―。犯罪者が必要なものを調達する裏社会のビジネスである。特殊詐欺であれば、振り込ませるための金融機関口座や、「飛ばし」と呼ばれる他人名義で契約された携帯電話、役所の偽造身分証、そして固定電話番号が道具屋の「商品」となる。
アシストライズは当局が把握している限り、国内最大の道具屋で、IP電話のパスワードなどを提供して通常の十倍とされる利用料を受け取っていた。法外な料金であり、犯罪に加担していたことを知りながらサービスを提供していたことは間違いない。
問題はNTT東日本の責任だ。アシストライズがNTT東日本と契約した電話番号が詐欺に使用されるケースは昨年秋ごろから確認され始めた。そして「警視庁からの要請を受け、NTT東日本はアシストライズへの新たな番号の提供を停止したとみられている」(情報筋)。
しかし実は、昨年十二月にアシストライズとまったく同じ住所で登記された「合同会社エムエス」が設立され、NTT東は同社と回線使用契約を結んでいるのだ。エムエスの代表は当初、女性だったが、今年五月には前述したアシストライズと同じ「佐々木式部」に交代している。誰が見ても実質的な「第二会社」だが、NTT東は同社と契約したのである。「気づかなかった」との言い訳は通用しない。
年間売り上げ一兆七千億円余りを叩き出すNTT東が、犯罪に関わる会社からの料金収入を惜しんで契約を続けるはずはない。全国紙社会部記者が語る。
「NTT東はお役所体質が強く、処分を恐れて総務省の顔色をうかがう傾向がある」
どういうことか。NTT東など通信事業者が遵守すべき三つの責務がある。「検閲の禁止」「秘密の保護」「利用の公平」だ。最初の二つは、憲法にも規定されており、電気通信事業法でも冒頭に登場する。そして最後の「利用の公平」も同法第二章の筆頭に掲げられた重要原則だ。たとえば、政治的信条を理由にして電話の利用が断られることがないよう定められた条文である。また、警察や救急といった緊急通報へのアクセスを保証するためにも、利用者からの申し込みがあれば、公平に契約することを義務づけている。
同法の二十五条では「正当な理由がなければ(中略)電気通信役務の提供を拒んではならない」としている。これは正当な理由があれば契約を拒めると読めるが、その判断は難しい。現に、過去には、契約者が有罪になったケースでも、それを理由として通信サービスの提供を止められないと総務省が方針を示している。
しかし一方で、「KDDIなど他の通信事業者はNTT東と比較すると、特殊詐欺に使われる懸念のある契約の拒絶に前向き」(前出情報筋)という。NTT東と西の二社は、電通事業法の杓子定規な適用を優先するあまり、詐欺犯罪を助長している状況なのだ。
「利用の公平」は無制限に適用されるものではない。たとえば暴力団員は新たな携帯電話契約を結ぶことができない。また、二〇一九年から、実際に詐欺に使用されたことが確認された番号については、事業者が利用停止にすることが可能になっている。
疑惑の会社と取引継続
同じグループ内でもNTTコミュニケーションズでは少し事情が異なる。昨年九月に摘発された「道具屋」の事件では、同社と契約した回線が使用されていた。そして、NTTコミュは約六千回線について事前に利用停止扱いとしている。これについて「総務省が当初、反対したが、NTTコミュが警察の協力を得て資料をそろえて説得した」(前出情報筋)という。
今回、アシストライズの事件で逮捕された実質的経営者の大堤容疑者は、二〇二〇年にも詐欺グループに転送電話サービスを提供して摘発され、総務省から処分を受けた札付きの人物。NTT東が本気で特殊詐欺撲滅に取り組むのであれば、サービス提供を拒否することは十分可能だった。
道具屋と警察はいたちごっこを繰り広げている。現在、捜査当局が目をつけているのがX社だ。千代田区に本社を置くX社について、すでに警察からNTT東に捜査照会が行われたという。しかしNTT東は耳を貸さず、X社との取引を継続中だ。X社はNTT東と西の光回線を利用して独自サービスと組み合わせた事業を展開している会社だという。
NTT東がアシストライズに提供した電話番号による詐欺被害額は「数十億円に上るとみられている」(前出情報筋)。国内最大の通信事業者が詐欺グループをサポートしているのだから、被害が絶えるわけがない。
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