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連載

現代史の言霊  第55話

十一月の勝利 -一九九二年の米大統領選挙-
伊熊 幹雄

2022年11月号

《経済こそが重要なのだ、愚か者》
ジェームズ・カービル(民主党選挙参謀)

 後の大統領が「ビル・クリントン」という名前になったのは、十五歳になる直前だった。生まれた時の名前は、「ウィリアム・ジェファーソン・ブライス三世」だった。実父のブライス・ジュニア(二世)は、ビルが生まれる三カ月前に自動車事故で死亡した。
 一九四六年。第二次世界大戦の戦勝国米国は、何もかも楽観的で、流動的だった。アーカンソー州の小さな町ホープでも、同じだった。ビルの母親がブライス・ジュニアと結婚した時、夫は重婚だった。
 彼女の二度目の結婚相手がロジャー・クリントン。アルコール依存と家庭内暴力のひどい男で、幼いビルは新しい父親を憎み、改姓しなかった。十五歳を前にクリントン姓になったことを、「一家で別姓は何かと都合が悪い」と後に語っている。この頃すでに、「将来は大統領」を夢見ていたようだ。

現職大統領vs「少年知事」

 少年の天分は大変なものだった。各州・・・