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連載

大往生考 第34話

『患者よ、がんと闘うな』の功績
佐野 海那斗

2022年10月号

 近藤誠医師が亡くなった。死因は虚血性心不全、享年七十三歳だった。慶應義塾大学病院に勤務する一九九六年、『患者よ、がんと闘うな』を出版。その後も二〇一二年に出版した『医者に殺されない四十七の心得』がベストセラーになるなど、日本のがん医療に一石を投じ続けた臨床医だ。
 その主張は「近藤理論を放置してはいけない」(勝俣範之・日本医科大学武蔵小杉病院腫瘍内科教授)などと、医療界から批判を浴びたが、彼を支持する人は少なくなかった。近藤氏の著作は、愛する家族を失った人にとって、その死を受け入れるための一助になったからだと私は考えている。
 近藤氏の名前を聞くと思い出す患者がいる。
 今から十年程前の話だ。私は、知人から父親の肺がんの治療について相談された。患者は六十歳代の元高校教師で、妻と二人で埼玉県に住んでいた。患者は県内の大学病院にかかっていたが、相談を受けたとき、肺がんは既に進行しており、治癒が期待できる状態ではなかった。
 患者が体調の不良に気づいたのは、その二年前だ。右肩の痛みを自覚して、地元の民間病院を受診した。整形外科に回された患者は、簡単な・・・