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旧ユーゴ「戦争再発」の足音

「欧州戦線拡大」ロシアの謀略

2022年9月号

 ロシアのウクライナ侵攻の裏で、北大西洋条約機構(NATO)が警戒を強めている地域がある。旧ユーゴスラビア解体後の一九九〇年代に欧州最悪といわれた民族紛争が起きたバルカン半島だ。「火薬庫」とも呼ばれるこの地域にウクライナの戦火が飛び火することに欧米は懸念を募らせている。
 台湾海峡の緊張に世界の耳目が集まった八月初め、欧州ではセルビアとコソボの情勢に緊張が走った。コソボ当局が同国北部で多数を占めるセルビア系住民にコソボが発行する車のナンバープレートの利用と身分証を義務付けると発表。これに反発したセルビア系住民が道路を封鎖し、警官への発砲事件も起きた。同地の住民の大半はコソボ独立を認めず、いまもセルビアの市民権を保持している。
 欧米はあわてて火消しに動いた。米国はコソボ首相アルビン・クルティを説得し、新ルールの導入を延期させた。欧州連合(EU)も八月半ばにクルティとセルビア大統領アレクサンダル・ブチッチの会談を仲介した。NATO事務総長イェンス・ストルテンベルグは緊張が高まった場合は現在コソボに駐留する約四千人の平和維持部隊を増強し、介入すると言明した。
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