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WORLD

《世界のキーパーソン》アンドリー・イェルマク(「ウクライナ大統領府長官」)

ゼレンスキーの背後の「振付師」

2022年8月号

ウクライナの指導者と言えば、今では誰もがゼレンスキー大統領を思い浮かべる。だが、ロシアによる侵攻の前は、それほど簡単な話ではなかった。俳優だったゼレンスキーを担ぎ出したのは、コロモイスキーという名のオリガルヒ(新興財閥)だった。大統領は彼の強い影響下にある、というのが多くの専門家の見立てだった。
 ところが、戦争は、ウクライナの権力構造まで変えてしまった。大統領は非常大権を振るい、富豪たちの資産を接収した。かつて自分を担いだコロモイスキーについては、市民権を剝奪した。戦況とともに、権力者の力関係は目まぐるしく変わっている。
 戦時下のウクライナで、「影の副大統領」と呼ばれるのが、大統領府長官を務めるイェルマクだ。
 大統領が七月中旬、ベネディクトワ検事総長と情報機関・保安局(SBU)のバカノウ長官を電撃的に解任した時には、首都キーウ(キエフ)では「これでイェルマクの天下だ」という指摘があがった。両権力機関トップは、イェルマクと熾烈なライバル関係にあったからだ。「解任劇はイェルマクが仕掛けた」とする説もある。
 イェルマクは大統領と同じユダヤ系。イ・・・