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社会・文化

歪んだ「文系大学院ブーム」の裏側

学位乱発で沈下する専門教育

2022年8月号

 長く低迷を続け、中国人、ベトナム人など留学生依存が深まってていた日本の文系大学院が、この数年、日本の社会人から熱い視線を浴びている。新たな専門知識、能力を獲得し、キャリアアップを狙うという大学院王道の進学も少なくないが、中高年の「自分探し」の自己満足型進学も急増している。その刺激となっているのが、大学を卒業していないスポーツ選手、芸能人たちの「フロッグ・リープ(蛙跳び)型」修士号取得。学歴ロンダリングも含め、日本の大学院は「教育の闇鍋」状態に陥り、本来の研究者育成、専門教育が弱体化の兆しを見せ始めている。
 最近、大手企業の人事担当者を悩ます中途入社志願の履歴書タイプがある。一流やそれなりに名の通った大学を卒業、就職した企業でそれなりに順調なキャリアを送っていたかにみえる三十歳代後半から四十歳代が退社し、経営学、法学、社会学など文系の大学院修士課程に進学。修士号、博士号を取得したうえで、求職活動しているというパターンだ。修士号取得者の専門能力は千差万別で評価が難しく、大学院進学の動機もみえにくいからだ。
 日本企業は工学系、理学系の修士号、博士号取得者は新卒、転職・・・