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政治

「ロスト安倍」の政局乱気流

「国葬と人事」岸田の内憂外患

2022年8月号






 元首相安倍晋三が凶弾に倒れた後、だれよりも早く政治的混乱の回避に動いたのが首相岸田文雄だった。七月十二日午後三時過ぎ、安倍の遺体を載せた霊柩車が首相官邸の玄関に横付けされた。顔を歪めながらマスク姿の岸田は手を合わせて頭を垂れた。岸田側近は証言する。
「この時に岸田総理は安倍元総理の葬儀を国葬で行うことを決断したのではないか」
 ともに一九九三年の衆院選挙で初当選。ところが自民党が初めて野党に転落し、二人は独特の友情を抱いていた。しかし、戦後では吉田茂しか例のない国葬を決断するにはそれ以上の理由があった。
 七月八日午前十一時三十分過ぎ、奈良市内の近鉄・大和西大寺駅前。参院選の応援演説中だった安倍は大勢の聴衆の前で銃声とともに崩れ落ちた。首相経験者でなおかつ他を圧する勢力を有した最大派閥、安倍派のオーナーの死を契機に何が起きても不思議はなかった。
 二日後の十日が投票日だった参院選に関しては既に自民党の大勝は見えており、岸田の最大関心事は安倍派の動向にあった。ましてや自身が率いる岸田派は・・・