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連載

をんな千一夜 第63話

「文芸芸妓」の悲哀
石井 妙子

2022年6月号

《磯田 多佳》

春の風物詩「都をどり」を観るため、京都へ行った。祇園の芸舞妓による春の舞踊公演だが、コロナ禍で三年ぶりの開催となった。
 久しぶりに観たせいか、私には花柳界独特の雰囲気が希薄になったように感じられた。芸舞妓たちの表情はどこまでも明るく、哀切さはない。街もまた、激しく変化していた。かつては、たとえゲートがなくても人は廓への立ち入りを、多少は遠慮した。だが、今や祇園は完全な観光地である。白川を渡った辰巳神社の付近はとりわけ人が多く、何組もの新郎新婦が記念撮影をしている光景に驚かされた。京格子のお茶屋が軒を連ねる一角で、確かに「京都らしい」背景ではあろう。だが、ここは廓なのである。妻のある男たちが妻でない女性を求めてやってくる。新郎新婦に、これほど似つかわしくない場所もないはずだが。
 辰巳神社の傍、白川側には吉井勇の歌碑が立つ。そこでも新郎新婦はカメラマンの注文に応じて、ポーズを取っていた。
「かにかくに祇園はこひし 寝るときも 枕の下を 水の流るる」
 この歌碑の場所に、かつて・・・