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連載

現代史の言霊  第49話

五月の薔薇 -英労働党政権誕生(一九九七年)
伊熊幹雄

2022年5月号

  「正しいことをする勇気があるのを示す時だ」
 トニー・ブレア(英国首相)


 ヨーロッパの五月は、爽快だ。長い冬が終わり、午後八時を過ぎても明るい。五月には政治変動も多くなる。みんなが夜中まで、素晴らしい陽気を楽しむからだ。
 英国の一九九七年五月一日は、そんな日だった。労働党が総選挙で地滑り的大勝を果たし、十八年ぶりに政権を奪還した。同党のシンボル、赤い薔薇が国中にあふれた。
 同党を率いたのは、数日後に四十四歳になるトニー・ブレアだ。若くてハンサム、颯爽としていて、演説がうまい。熱狂的支持層は、「ブレアマニア」と呼ばれた。
 筆者も彼に魅了された一人だ。ロンドン駐在の記者として遊説を追いかけた。やがて、この人物の言葉が、桁外れに簡潔、平明なことも分かってきた。
「第三の道」とは何だったのか
 看板のスローガンは「ニュー・レイバー、ニュー・ブリテン(新しい労働党、新しい英国)」と、至極簡明であった。同じオックスフォード大学の出身ながら、ボリス・ジ・・・