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「敵対的買収」は良いことだ

アリシア小川(日本経済研究者)

2021年12月号

 ―日本で敵対的買収が増えています。理由は何でしょうか?

 小川 米国では一九八〇年代に敵対的買収ブームが起きた。この時と同じ条件が今の日本にある。当時の米国では、第一に、一部の複合企業の株式が、企業価値よりも割安で取引されていた。第二には、金融緩和で、買収資金を非常に安く調達できた。第三に、レーガン政権が独占禁止法適用に非常に寛大だった。日本も今、同じ状況だ。  
 米国では、買収の波の中でコングロマリットが解体され、産業ごとに統合再編が行われた。企業はより効率的に、専門的な経営が可能になり、労働力の専門化も進んだ。問題は労働者だった。八〇年代以前の米国では、ホワイトカラーの多くは、今の日本と同じように、終身雇用が期待できた。七〇年代には、同じ会社に三十年勤めて定年を迎える男性社員も珍しくなかった。  
 複合企業を解体すると、これが不可能になった。その結果、多くのサラリーマンが独立して事業を始めた。自分自身が責任を持って仕事をし能力を高める必要がある時代となった。  
 敵対的買収は、混乱が大き・・・