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連載

日本の科学アラカルト 132

自然災害を「科学」で精密予測 人的被害を防ぐための研究

2021年8月号

 七月三日、静岡県熱海市で発生した大規模土石流は、多くの家屋をなぎ倒し、町を破壊した。テレビから流れる、土石流の瞬間を捉えた映像は、衝撃を与えた。
 近年、豪雨による災害は顕著に増えている。二〇一八年には、観測史上最多となる、三千五百件近くの土砂災害が発生し、死者が百六十一人となった。翌一九年にも二千件近くの土砂災害が起き、これでさえ、過去十年間の平均発生件数の二倍になる。昨年は、七月に熊本で豪雨災害が発生し、高齢者施設で多くの犠牲者が出たことは記憶に新しい。
 大規模な川の決壊や土石流被害は、毎年のようにどこかで発生し、少なくない犠牲者を生んでいるのだ。「線状降水帯が発生したから」「地球温暖化のせいだろう」といくら後からしたり顔で原因を解説されたところで、犠牲者や遺族は浮かばれない。「なぜ被害を防げなかったのか」という、やり場のない憤りに苛まれるだけだろう。
 災害大国とさえ言える、この状況に、科学の力でなにかできないかと取り組む研究者たちがいる。
 東北大学災害科学国際研究所の森口周二准教授、寺田賢二郎教授らの研究グループは今年六月、豪雨によ・・・