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社会・文化

松竹と「海老蔵」の病んだ関係

人種差別「新作歌舞伎」の舞台裏

2021年7月号

 市川海老蔵が歌舞伎座に出ない―。そんな異常事態がようやく解消される。昨年の新型コロナウイルス感染拡大で、大名跡「團十郎」の襲名が延期となり、八月に公演が再開されて以降も海老蔵は歌舞伎座の舞台に立たなかった。今月四日から開演する「七月大歌舞伎」には出るものの、この間、歌舞伎界の枢軸である成田屋、すなわち海老蔵と松竹との間の溝は深まるばかりだった。梨園で今、なにが起きているのか。

伝統ある舞台を蹴り自主公演

 騒動となったのは、五月二十九日、三十日の二日間にわたって明治座で上演された「海老蔵歌舞伎」だ。伝統演目である「実盛物語」と新作の「KABUKU」が上演され、問題は後者で起きた。
 舞台は二〇二一年の渋谷スクランブル交差点から始まる。コロナ禍で苦しむ人の中にノーメイクの海老蔵が現れたところで舞台が暗転し、一気に江戸時代に移るという趣向。「よみうり」「あさひ」「まいにち」と染め抜かれた衣装を着た瓦版屋が登場し、疫病除けの贋お札を売りつけ、美人女性には襲い掛かり、そうでない女性からはカネを奪うという非・・・