首相菅義偉の足元から小石がポロポロと音を立てながら落ちている―。六月十七日夕、新型コロナウイルス感染症の政府対策本部が終了、記者会見までのわずかな間隙を縫うように菅は国家公安委員長の小此木八郎と向き合った。誰もが差し迫る東京五輪をめぐる警備・治安対策に関する小此木からの報告と見ていたが、中身は全く次元を異にした。八月二十二日に予定される横浜市長選挙への小此木自身の立候補をめぐる最終調整だった。
　市長選最大の焦点はカジノを含む統合型リゾート（ＩＲ）の誘致問題。ＩＲ誘致は菅が官房長官時代から手掛ける“菅銘柄”の象徴的な政策と言っていい。小此木もそのことは百も承知の上で自らの思いを伝えた。
「あくまでもＩＲ誘致には反対で立候補します」
　これに対して菅は了解しなかったが、かといって立候補それ自体については異論を差し挟むこともなかった。小此木は二十二日の閣議後の記者会見で立候補を検討していると正式に表明した。
「立候補する決意を固めました」
　この会見は菅と小此木の深く長い関係を考えれば、小此木の「決別宣言」にも聞こ・・・