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連載

現代史の言霊  第39話

七月の暗転 -アトランタ五輪爆弾テロ事件(1996年)-
伊熊 幹雄

2021年7月号

《FBI捜査に大きな判断ミスがあった》
米司法省

 オリンピックの開催中に、記念イベントで爆発が起こり、死傷者が出る。五輪関係者にとって、絶対に起きてはならない事件が、一九九六年七月二十七日未明、アトランタのセンテニアル・オリンピック公園で起こった。
 この直前の二十六日の競技では、競泳の男子四×一〇〇メートルメドレーリレーで、米国チームがオリンピック新記録で優勝し、大会のムードは最高潮に達した。柔道男子六十キロ級で、日本の野村忠宏が優勝した。
 だが、公園でのコンサートが翌二十七日の午前一時を過ぎた時、祭典は一瞬で暗転した。大爆音とともに、女性一人が爆弾に仕掛けられたクギを頭に受けて、死亡。さらに、必死で現場を離れようとしたカメラマンが心臓まひで死亡した。負傷者は百十一人に達した。
 当時のビル・クリントン米大統領や、大会関係者にとっても、計り知れない痛手だ。連邦捜査局(FBI)と地元警察には、大きなプレッシャーがかかった。「一刻も早く、犯人を挙げろ」と。

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