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連載

Book Reviewing Globe 446

相半ばする民主主義への「愛憎」

2021年7月号

 コロナ危機の過程で、欧米の民主主義国の感染症への対応はいかにも拙劣であった。それに比べて、中国は当初、発生を隠蔽し、緊急事態宣言発布を躊躇し、感染を拡大させたが、武漢市を“封城”してからは徹底した移動禁止、隔離、追跡、検査を断行し、感染の拡大と重症化による死者数を抑え込んだ。民主主義の体制そのものがパンデミックのような実存的危機を乗りきるのには向いていないのではないかといった疑問が提起されるに至っている。
 すでに二〇一六年の英国のEU離脱と米国のトランプ当選によって民主主義への懐疑は深まり、中には世界は一九三〇年代に「後戻り」しつつあるのではないか、との論評も聞かれた。経済格差の拡大と実質賃金の低下、宗教・人種紛争、排他的ナショナリズムの激化、国境紛争の多発などその時代と似通った内外の政治経済状況が生まれつつあるとの見方である。
 しかし、このような二十世紀のどこかに「後戻り」しつつあるといった「後戻り」症候群に陥らないように注意する必要がある、と著者は主張する。民主主義の見慣れた失敗例―ファシズム、暴力、世界戦争―ばかりに焦点を当てるこ・・・