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連載

皇室の風 154

ピエタとダビデ
岩井 克己

2021年6月号

「ミケルアンヂェロは、いま、生きている」
 大戦下、自由のための戦いをルネサンス期に託してうたいあげた羽仁五郎著『ミケルアンヂェロ』の書き出しだ。「うたがうひとは、〝ダヴィデ〟を見よ」と続くのだが、今は「うたがうひとは、ピエタを見よ」と続けたくなっている。
 ミケランジェロのピエタ像を見たのは、平成五(一九九三)年に天皇・皇后の欧州訪問に同行し、バチカンを訪れたときだ。 
 巨大な聖ピエトロ大聖堂の中で、列柱の裏の暗い側廊にひっそりと置かれた聖母子像の、この世ならぬ美しさの記憶はずっとあせない。
 平成二十三(二〇一一)年の東日本大震災の直後、日本看護協会が『ナース発東日本大震災レポート』を緊急出版した。被災者の看護・支援に当たった医療関係者百八十三人の生々しい現場報告である。
 そのなかに、いわき市立総合磐城共立病院未熟児・新生児科所属(当時)の医師本田義信の「震災犠牲者の一人 13トリソミーの男の子」と題した一文があった。
 いわき市の死者四百六十八名の中に、その男の子「Y君」がいた。発災六年前に染色体異常による重度障害を・・・