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EUが「移民排斥」に傾斜

人道主義の裏の「本性」露わに

2021年6月号

 新型コロナウイルスのパンデミックの陰に隠れ、欧州では難民・移民問題への関心が薄れている。だが、中東やアフリカの紛争や独裁政権を逃れようとする人々の苦境はむしろ深刻化している。人権や民主主義の「砦」であるはずの欧州連合(EU)が排他主義的傾向を強めているためだ。EUは難民・移民政策の見直しを進めるが、その内容には人道主義をうたう美辞麗句とは裏腹に難民らの流入を拒もうとする「本音」がにじむ。
 四月下旬、またも悲劇が起きた。地中海リビア沖で難民・移民ら約百三十人を乗せたゴムボートが転覆し、全員が消息を絶った。内戦が続くリビアなどアフリカから欧州を目指す途中で、高波にのまれたとみられる。
 数日後、EUの執行機関「欧州委員会」のヨハンソン欧州委員(内務担当)は記者会見でこの事故に触れ、難民・移民政策を巡る新方針を示した。「リビア沖の事故は欧州にとっても悲劇です。私たちは命を救うためにあらゆることをしなければならず、そのために難民・移民に秩序をもって対応することが必要なのです」
 しかし、この発言には正直鼻白んだ。新方針が、EUの国境・沿岸警備機関「フロンテック・・・