本に遇う 第257話
黒板五郎という生死
河谷 史夫
2021年5月号
久しく姿を見なかった俳優田中邦衛の訃報に接した。四月二日に家族が公にしたところによると、三月二十四日に老衰で逝ったそうである。八十八歳だった。
「すばらしい医療・介護チームのサポートのもと、私たち家族も、共にかけがえのない時を過ごすことができました」とあるから、終末看護を受けていたのであろう。葬儀は家族だけで済ませた。香典、供花は辞退。「お別れの会」や「しのぶ会」はしないと明言しているのが未練たらしくなくていい。
「彼ほど純粋で真面目で無垢で、家族を愛した男を知らない。いや家族だけではない周囲全てをだ。彼はあたかも僧籍にいる人のようだった」と倉本聰が悼んでいる。
田中邦衛と言えば黒板五郎だ。倉本が脚本を書いたテレビドラマ『北の国から』で、二十一年にわたり父親を演じた。最後は『北の国から ’02遺言』であった。炭焼き小屋で五郎は遺書を書いている。
「純、蛍。おれにはお前らに遺してやるものが何もない。でも―、お前らには―うまくいえんが、遺すべきものはもう遺した気がする。金や品物は何も遺せんが、遺すべきものは伝えた気がする」
・・・
「すばらしい医療・介護チームのサポートのもと、私たち家族も、共にかけがえのない時を過ごすことができました」とあるから、終末看護を受けていたのであろう。葬儀は家族だけで済ませた。香典、供花は辞退。「お別れの会」や「しのぶ会」はしないと明言しているのが未練たらしくなくていい。
「彼ほど純粋で真面目で無垢で、家族を愛した男を知らない。いや家族だけではない周囲全てをだ。彼はあたかも僧籍にいる人のようだった」と倉本聰が悼んでいる。
田中邦衛と言えば黒板五郎だ。倉本が脚本を書いたテレビドラマ『北の国から』で、二十一年にわたり父親を演じた。最後は『北の国から ’02遺言』であった。炭焼き小屋で五郎は遺書を書いている。
「純、蛍。おれにはお前らに遺してやるものが何もない。でも―、お前らには―うまくいえんが、遺すべきものはもう遺した気がする。金や品物は何も遺せんが、遺すべきものは伝えた気がする」
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