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連載

をんな千一夜 第49話

戦後政治史の証人の嘆息
石井 妙子

2021年4月号

《辻 トシ子》

 コロナが流行してからというもの、会いたい人にも会えぬ日々が続いている。中には永遠の別れとなってしまった人もいて、やりきれない。辻トシ子の訃報に接したのは去年の今頃である。桜の開花が目前に迫った二〇二〇年三月十九日、辻は百二歳で旅立っていった。
 私が初めて会った時、辻はすでに九十一歳。アメリカ大使館そばの自転車会館内に個人事務所を構え、九十代でも毎日、出勤していた。事務所には予告もなしに、いろんな人が顔を出す。役人、政治家の秘書、政治家本人、県知事、財界人……。
「戦後の日本政治を彼女ほど長きにわたって見てきた人はいない」と言われていたが、表に出ることは好まぬ人だった。
 大正七年生まれ。女性初の副総理秘書官。保守政界を裏で仕切った。「政界官界の黒幕女性」「政界の女太閤」「ゴッドマザー」等、様々に言われ、大蔵省や通商産業省の事務次官は就任すると、まっさきに挨拶に来るとの噂もあった。
 トシ子の父親は戦前、政界の黒幕として恐れられた辻嘉六である。松・・・