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連載

Book Reviewing Globe 443

米中“大デカップリング”の罠

2021年4月号

 英ケンブリッジ大学医学部を出て、微生物学を研究していたジョゼフ・ニーダムが同大学に留学してきた専門分野を同じくする中国人の女性研究者、魯桂珍と出会わなかったら、彼の記念碑的著作である『中国の科学と文明』はこの世に出なかっただろう。彼は魯と恋仲になり、彼女の影響を受け、中国に関心を抱くようになった。ニーダムは中国語を必死に勉強し、中国の科学史研究にのめり込んでいった。彼女は南京の出身だった。日本軍の南京虐殺の非を彼女は訴え、彼は英国政府に対日宥和策を変更するよう運動した。ニーダムは一九四二年から四五年まで、蔣介石重慶政府の科学顧問を務めた。
 産業革命に乗り遅れ、西洋に蹂躙され、日本に東洋の盟主の座を奪われた中国の没落の根本原因は科学精神の欠如にある、と中国の開明派は主張してきた。そのうちの一人の胡適は自国を「差不多先生」と名付けた。正確を期すことを軽蔑する中国の文化からは科学と技術は育たないと説いたのである。しかし、ニーダムは中国には古代から科学と技術とイノベーションが脈打っていたとする歴史を著した。この「先進としての中国」史観は西欧の非西欧世界への偏見・蔑視とルネサンス以・・・