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社会・文化

東京五輪「強行」は間違っている

小笠原博毅(神戸大学教授)

2021年2月号

 ―東京五輪・パラリンピックの今夏開催を危ぶむ報道が海外発で出始めましたが今後どう対応すべきでしょう。

 小笠原 いますぐに開催を断念すべきだ。現状は「新型コロナ禍でも開催した」という事実のために固執しているようにしか見えず、もはや開催することが目的化している状態。「コロナに打ち勝った証しとしての五輪」というのも、「復興五輪」と同じくらい意味がない言葉だ。なにをもって「勝った」とするのかという疑問にさえ答えない。今回の大会を巡って、政府などが「レガシー」などと空疎な言葉を繰り返してきたが、同列のものだろう。

 ―選手にワクチンを優先的に接種しようという議論も出てきました。

 小笠原 それが果たして近代五輪の理想に合致するのか。クーベルタン男爵の思想を形にした五輪憲章の「オリンピズムの根本原則」の一項、二項にある「人生の哲学」や「人間の尊厳の保持」という文言、そして大会で演奏されるオリンピック讃歌の中の理念を合わせて、「五輪は人間讃歌である」とされてきた。・・・