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連載

をんな千一夜 第47話

桃の造花の記憶
石井 妙子

2021年2月号

《山口 淑子》

 元慰安婦であったという韓国人女性と遺族ら十二人が日本国政府に損害賠償を求めた裁判で、一月八日、韓国のソウル中央地裁は原告の主張を認めて、一人あたり一億ウォンの支払いを命じる判決を出した。これをどう受け止めるかと記者たちに聞かれた菅義偉総理は、いつになく語気が強かった。
「国際法上、主権国家は他国の裁判権には服さない。これは決まりですから。そういう中で、この訴訟は却下されるべき、このように考えます」「まず、この訴訟は却下されるべき。そこから始まる」
 ここのところ記者会見を開けば、弱々しい、言葉に力がない、頼りない、と批判にさらされている。そうした中での強気な姿勢だった。
 二〇一五年、慰安婦問題の最終解決をうたって安倍晋三政権下、日韓合意がなされた際、岸田文雄外相は直後の共同記者発表でこう述べている。
「当時の軍の関与の下に、多数の女性の名誉と尊厳を深く傷つけた問題であり、かかる観点から、日本政府は責任を痛感している。安倍内閣総理大臣は、日本国の内閣総理大臣として改めて慰安・・・