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社会・文化

不世出のスパイ作家「ジョン・ル・カレ」

「知の巨人」が遺した豊穣なる物語

2021年1月号

 二〇二〇年十二月十二日、イギリスの作家ジョン・ル・カレが八九歳の生涯を閉じた。一九六一年に『死者にかかってきた電話』でデビューしてから(邦訳は六五年)、長篇小説を二十五作、回想録を一作上梓し、おそらくは遺作となる『スパイはいまも謀略の地に』は英語圏で二〇一九年、本邦では二〇年の発刊と、まさに生涯現役を貫いた。
 現役であればいいという話ではない。この作家が驚異的なのは、そのときどきの国際情勢を取り入れた作品の質が最後まで落ちなかったことだ。しかも、総じてシリアスな謀略や残酷な真実を描きながら、どの作品も例外なく良質のエンターテインメントに仕上がっている。
 世界的なベストセラー作家になったのは、三作目の『寒い国から帰ってきたスパイ』からだった。イギリス情報局秘密情報部(MI6)の職員、つまりはスパイとして、当時の西ドイツの首都ボンのイギリス大使館に勤めながら書いた小説で、ほんの数年前に造られた「ベルリンの壁」を効果的に用い、ミステリー的な趣向も凝らした傑作である。世界の動きを的確にとらえていち早く取り入れるジャーナリスト的な素養も一気に開花した。
 とは・・・