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連載

《世界のキーパーソン》ウグル・サヒン(バイオンテック社CEO)

ワクチンでコロナ制圧の希望を担う

2021年1月号

 二〇二〇年十二月十八日は、日本の医学史に残るかもしれない。米国の製薬大手「ファイザー」社が、ドイツの「バイオンテック(ビオンテック)」社と共同開発した新型コロナウイルスのワクチンについて、日本での製造販売の承認を厚生労働省に申請した。日本での申請第一号だ。英国でのワクチン接種で世界の先陣を切り、米国でも接種開始第一号となった。
 サヒン(トルコ語読みはシャヒン)は五十五歳にして、ドイツとトルコでは伝説の存在だ。四歳の時に、母親に連れられてトルコの小都市からドイツにわたり、才覚一つで世界の最先端企業経営者になったからだ。父親はドイツの自動車工場で働く「ガストアルバイター(外国人労働者)」だった。
 サヒン少年にとって、新しい母国は夢のような国だった。欧州随一の科学・教育大国で、子供向けの科学読み物や教材がふんだんにある。少年はカトリック教会の図書館にこもって、こうした教材をむさぼり読んだ。神童ぶりは傑出しており、ケルンの名門ギムナジウム「エーリッヒ・ケストナー」校に進学。サヒンは同校初の、トルコ系移民の子供であり、数学と科学では最優秀の成績だった。
 免疫・・・